サイエンスZERO「挑戦者たち! 新型ワクチン開発で世界を救え」マラリアワクチン

こんにちは。

NHK Eテレで放送している『サイエンスZERO』。毎回毎回いま話題の最先端の科学と技術をとっても分かりやすく解説してくれるので、ワタクシの大好きな番組でもあります。今回は、2020年1月26日放送の「挑戦者たち! 新型ワクチン開発で世界を救え」をご紹介します!

年間45万人の死者を出す感染症・マラリア。その根絶を目指してワクチン開発に挑む日本人研究者・赤畑渉さんが生み出したワクチンは、動物実験で9割の感染を防いだ。カギとなるのは、ワクチンの大きさ。これまでにない巨大さで、免疫を誘導する能力が従来の約8倍あるという。2019年9月、アメリカでワクチンの効果を実際に人で確かめる臨床試験に挑んだ。赤畑さんの活動に密着、新型ワクチン誕生の可能性を追う。

どんな経緯で開発されたワクチンなんでしょうか?そして臨床試験の結果は?

サイエンスZERO〜放送日と出演者

【放送日】2020年1月26日
【語り】小島瑠璃子
【放 送】 毎週日曜 [Eテレ] 午後11時30分~0時
【再放送】 翌週土曜 [Eテレ] 午前11時~11時30分

サイエンスZERO〜マラリアを根絶させるワクチン、臨床試験でワクチン接種

2019年9月アメリカメリーランド州のウォルターリード陸軍研究所で日本人研究者が人類の未来を変えるかもしれないある試験に挑みました。赤畑 渉(あかはた わたる)さん(46歳、製薬ベンチャー企業 CEO)世界が注目する感染症のワクチンを開発しています。開発から10年、初めて人で効果を確かめます。うまくいけば実用化がぐんと近づきます。

「ワクチンは20世紀最大の発明と言われている。本当にいいワクチンができれば、安い価格で多くの人を救うことができる。」

赤畑さんが目指すのは感染症マラリアの根絶です。マラリア原虫という寄生虫が体内で増殖、脳や腎臓などの機能不全を引き起こして、最悪の場合死に至る病気です。アフリカを中心に年間2億人以上が感染、40万人以上の死者を出しています。犠牲者の6割以上が5歳未満の子供です。治療薬(マラロン、ビブラマイシン、メファキン)はありますが高いため使える人が限られます。そこで期待されているのが安く大量生産が可能なワクチンなのです。

今回、赤畑さんのワクチンの安全性と効果を確かめる臨床試験(新しい薬品の安全性や効果を人間の体で確かめる試験)に30人が参加。この日全員にワクチンを接種しました。

その効果を確かめる方法はただ一つ。

「ワクチンの効果を知るには、実際にマラリアを体に入れるしかありません。そのために参加者の皆さんには厳重に管理された部屋でマラリアに感染した蚊(ハマダラカ)に5回刺されてもらいます。」(ウォルターリード陸軍研究所 メリンダ・ハマー医師)

マラリアは蚊を媒介して感染する病気です。これはワクチンを打った参加者が実際に感染するかどうか確かめる試験なのです。

「どうして臨床試験に興味をもったのですか?」

「初めて聞いた時は驚きました。でも、私がマラリアに罹ったとしても数千人の命を救う研究の役に立ちます。良し悪しを天秤にかけてみて、いいことの方が多いと思ったんです。だから、試験を受けることにしたんです。」(臨床試験の参加者 セス・ガトレルさん)

「素晴らしい考えですね。本当にありがとうございます。もしこのワクチンがうまくいけば世界の半数の人々を救うことができます。」

こう人たちが僕らは必要なんで、こうやって参加してくれて興味を持ってやってくれる人がいないと、こういう実験は前に進まないので本当にありがたいです」

実際に蚊に刺されるのは3週間後。その間にワクチンによって体の中に変化が起きると言います。ワクチンは病原体の毒性をなくして形だけ真似たもの。これが体に入ると免疫が敵だと認識して病原体を攻撃する抗体と呼ばれる物質を作り出します。この状態は一定期間続くため、マラリアが体に入ってきても攻撃して発症を防げるのです。

「これから先参加者の経過を注意深くみていきます」

「本当にありがとうございます。あなた方の協力がなければこの臨床試験を行うことはできません。」

「私たちもこの臨床試験に協力できてうれしいです。これから数週間語の結果が私たちも楽しみです。」

「これからチャレンジが待っているので、もう一山ある感じですけど。みんなのために役に立つようなワクチンになって欲しいと思って、その最初のステップなんでこれをうまく乗り越えようと思っています。」

サイエンスZERO〜マラリアを根絶させるワクチン、VLPというシュークリームの皮

アメリカの首都、ワシントンD.C. その郊外はバイオテック・コリドー(生命工学の回廊)と呼ばれ、世界の生命科学をリードしています。

その中心がアメリカ国立衛生研究所。世界屈指の医学研究の拠点です。その周囲には巨大な製薬企業が集結、新薬開発でしのぎを削っています。

「ここ アストラゼネカ。めちゃくちゃ大きくなっていて。何人ぐらいいるんだろうね、ここに」

赤畑さんも8年前にこの地に会社を立ち上げました。

「ここのスペースは3つの会社でシェアしていて、ここはアルツハイマーの研究をやっている。こっちは結核を治す治療薬の開発している。」

赤畑さんの会社の社員はたったの6人。みんな世界の医療を変えたいという大きな夢を抱いています。

今新薬のアイデアは赤畑さんの会社のような小さな企業から生まれることが増えているといいます。赤畑さんが勝負をかけるのが、今回開発しているワクチンです。これがワクチンのもとで、いろんなタイプのマラリアにもプロテクションができると予測しているので、今回成功すれば非常にいいワクチンになると思います。

試験官の真ん中にある白い部分がマラリアを予防するワクチンになります。

「もし本当に僕たちのワクチンが効くとしたら、初めてマラリアをある程度ドラスティック(急激)に減らすことができるワクチンになる可能性がある。マラリアがない世界が実現することができるかもしれないと思っています。」

マラリアワクチンは世界中の研究者が開発に挑み続けています。現在も数十のワクチンが提案されていますが実用化に至ったのはたった一つ。しかしそのワクチンの効果は4割程度。マラリアの根絶は望めません。一方、赤畑さんが開発しているワクチンがこちら。赤いところが病原体の目印、抗原です。赤畑さんは効果を高めるため抗原を従来のワクチンの10倍以上にもなる480個敷き詰めました。

「理想的には99とか100%に近いようなワクチンを開発するのが研究者とか会社の夢ですね」

期待通りの効果が出れば、マラリアの根絶も夢ではないと考えています。自信の源はワクチンの土台、VLPと呼ばれる部分にあります。VLP(Virus Like Particle)とは日本語でウィルスに似た粒子という意味。どういうことか説明してくれました。

「シュークリームとウィルスは似ている。というのは、ウィルスを形作るのが皮で、中のクリームが遺伝子。VLPはシュークリームでいうとこういうこと。クリームが遺伝子だとすると、僕たちはこの遺伝子を除いたVLPを作っています。」

ウィルスは殻と遺伝子二つの部分に分けられます。遺伝子を取り除いて殻だけにしたものがVLPです。そして表面に抗原としてマラリアの特徴となる物質を乗せたものがマラリアワクチンです。遺伝子のないVLPは増殖して体内で悪影響を及ぼさないと考えられています。そのため安全性の高いワクチンが作れます。ワクチンの入った体内では免疫反応が起こり抗体が作られます。抗原が多いほど抗体が増え、効果が高まると考えられています。つまりたくさん抗原が乗ったワクチンが効果が高いというわけです。ところがVLPには課題がありました。

「外見は本当のウィルスと全く同じように見えるが、触ると簡単に崩れてしまう。ウィルスは中の遺伝子 クリームがあってしっかりした構造をとっているが、遺伝子を除くと非常に壊れやすくなってしまう」

しかし、赤畑さんにはあるアイデアがありました。かつて研究していたチクングニアという病気のウィルスです。このウィルスは従来のワクチンのVLPと比べて直径がおよそ4倍です。しかもチクングニアウィルスにはおよそ250の種類がありました。もしかしたらその中に壊れにくいものがあるかもしれないと考えたのです。赤畑さんはチクングニアウィルスの殻の部分を作るDNAを詳しく調べました。すると、

「ここがNになっているんですね」

たった一つだけ、殻を作るDNAにわずかな違いがありました。実際にVLPを作ってみると壊れなかったのです。赤畑さんはVLPを安く大量に作る方法も考えていました。使うのは大腸菌。大腸菌にDNAを埋め込みVLPを作らせれば増殖してわずか半日でおよそ700億倍にもなるんです。こうして作られたVLPに抗原を480個乗せてワクチンを完成させたのです。

「僕らのVLPのサイズは非常に大きいが、それに480個のマラリア抗原を埋め込むことに成功した。それをワクチンとして使っている。その2つが合わさって、非常に高い免疫を誘導する」

動物実験では感染を90%防ぐという、極めて高い効果を示しました。もしこの効果が人でも得られれば、マラリアが根絶できるはずです。



サイエンスZERO〜マラリアを根絶させるワクチン、臨床試験でマラリア蚊に刺されて確認

ワクチン接種から3週間(2019年9月25日)、いよいよ効果が試される日がやってきました。部屋の中には蚊がいっぱい。マラリア原虫を持つ蚊が刺すことで、マラリアを人体に入れ込みます。細かい網で逃げられないようにしてある蚊は網越しに参加者を刺します。参加者たちは5回以上蚊に刺されるまでひたすら待ち続けます。

「蚊が刺したところを見せてもらえますか?」

赤く腫れています。本当に頭が下がります。

もし発症した場合はすぐに薬で治療することになっています。参加者を刺した蚊はすべて解剖に回されます。

「蚊が確実にマラリアを持っているかを確かめるために、解剖して調べます」

蚊に刺された後、体内では何が起きるのでしょうか。蚊の針からはマラリア原虫と呼ばれる寄生虫が侵入します。三日月形をしているマラリア原虫、実は体の中で形を変えていきます。体に侵入した原虫はすぐに血流に乗って肝臓へ向かいます。肝臓にたどり着くと細胞の中へ入り込み丸い形、発症形態に変化。肝臓で分裂・増殖を開始します。この段階がマラリアの感染です。およそ2週間かけて数千倍まで増殖した発症形態の原虫は再び血液へ。赤血球へ入り込みさらに増殖。赤血球を破壊するとともに毒素を発生し、発熱や貧血を引き起こします。マラリアの「発症」です。最悪の場合、脳や腎臓などの機能不全を起こし死に至ることもあるのです。

赤畑さんのワクチンが狙うのは三日月形の感染形態の時点、マラリアに感染する前の段階です。もし強い免疫が働き、全滅させることができれば感染はしないはずです。原虫が肝臓にたどり着くまでの時間は45分。この間に免疫が働くかが勝負です。

「短い期間でやっつけてあげないといけないので、非常に効果の高いワクチンが求められていると思います」

サイエンスZERO〜マラリアを根絶させるワクチン、赤畑さんを駆り立てた思い

赤畑さんは18年前に単身渡米、今は家族4人でメリーランド州に暮らしています。

「ケーキ買ってあるから食べていいよ」

赤畑さんには絶対にワクチン開発を成し遂げたいと思わせた大きな存在がいます。渡米してすぐ、国立衛生研究所で同僚となったインド人研究者、ラクシュマナンさんです。

「最初僕が英語ほとんどしゃべれなくって、彼がすごくいろんなことを教えてくれて。彼、非常にすごい研究者だったんですけども、意外に英語は通じないけど話が通じるっているか。言葉が通じなくても、何かこう、分かり合える時ってあるじゃないですか。 そういう感じで、いい友達でした。」

ところが互いに研究を進めていた矢先、ラクシュマナンさんの体に癌が見つかります。進行の早い深刻なものでした。

「時々電話がかかってきて、自分が病気なのに僕の研究のこととかをすごい気にしてくれてて、「僕は絶対治るから待っててね」ってずっと言ってくれてて。ほんとにすごいファイターだと思います。多分、抗がん剤ですっごい辛かったと思うんだけど。勇気づけられたっていうか、ほんとに最期にね、亡くなる時に、もうほんとに「いい友達でいてくれてありがとう」って言ってくれた言葉がほんとに忘れられなくって。もう、ほんとに弱ってた時に、最後、僕らが飛行機の便があるから行っちゃうっていう時に、起き上がってくれて、もうほんとに骨と皮しかなかったんだけど、最後手を握ってくれて、最後「ありがとう」って言ってくれたのが、ほんとに、もう、その言葉がもう忘れられない。それだけかな。」

病で悲しむ人たちの役に立ちたい。その思いが赤畑さんをワクチン研究に駆り立てました。ワクチンには病気の根絶を可能にする力が秘められていると考えたからです。人類がそれを実感したのが天然痘です。感染力が強く、致死率は50%に達することもありましたが、ワクチンによって地球上から根絶。人類が勝利した唯一の感染症となりました。

「委員会はここに天然痘絶滅を宣言する」(1980年)

ワクチンが開発されたほかの病気でも患者数が激減しています。

ラクシュマナンさんの死から6年(2012年)。チクングニアウィルスからVLPを作った赤畑さんはその功績で国立感染症研究所で最高となるディレクターズ・アワードを受賞。赤畑さんのVLPは有名科学雑誌の表紙を飾り、世界中から注目を集めました。VLPは抗原を変えれば様々な病気に応用できます。

赤畑さんはいつかガンに対抗するワクチンも完成させたいと考えています。亡き友のためにも前に進み続けるのみです。

「多分これはね、僕だけの話じゃきっとなくって、多分みんな世の中病気で亡くされた人とか、きっとそういう胸の中に残って生きていってる人たち。そういう人たちがいっぱいいて、そういう人たちで世の中成り立ってて。そういう人たちに少しでも役に立つような薬、ワクチンを届ければですね、やっぱりそれはすごくいい仕事になるし、そういった普通の人たち、まあ、僕も含めて普通の人たちに、そういう少しでも役に立つようなことができればと思っています。」

サイエンスZERO〜マラリアを根絶させるワクチン、臨床試験で詳細検査

マラリアの蚊に刺されてから1週間後(2019年10月)。

研究所では臨床試験の参加者たちの詳細な検査が始まっていました。

「今日はここには何のために?」

「今日はワクチンを受けた後、そのあとにマラリアに感染実験をしたんですけども、その最初の結果を見に来ました。」

参加者たちの体調に変化はないか。赤畑さんも気になって仕方がありません。

「今の気分は?暑いとか熱っぽいとか?筋肉痛は?吐き気や嘔吐、下痢や腹痛は?」食欲不振や腰痛はある?」

「ありません」

感染しているかどうかは、発症形態のマラリア原虫が血液中で見つかるかで確かめます。最初の血液検査の結果が判明しました。果たして・・・

「血液検査の結果です。今のところすべて陰性、誰もマラリアに罹っていません」

「血液の中にマラリアはいませんよっていうことなんで、一応安心しました。」

参加者がマラリア蚊に刺されて3ヶ月以上。赤畑さんのもとに感染者が出たという報告は届いていません。

サイエンスZERO〜マラリアを根絶させるワクチン、次のステージはコンゴ

赤畑さんの次なるステージ。それは感染流行地でのワクチン効果を確かめることです。その第1段階として考えているのが、コンゴ民主共和国での臨床試験です。ここでは、年間1500万人がマラリアに感染。3万人もの命が失われています。

日常的にマラリアに接している人々を守れるか、確かめたいと考えています。

「実際にコンゴで生活する人たちにワクチンを接種して、流行地の人たちに役立つワクチン開発という位置付けでやろうと考えています。そういうところで臨床試験をやるのは非常に意味のあることなので・」

この日赤畑さんは、コンゴに行く日に備えて病院で予防接種を受けていました。B型肝炎ウィルスのワクチンです。いつか自分の作ったワクチンが、こうして人々を助ける日を夢見ています。

「あっという間ですね、ほんとね。」

「あっという間なんです。ワクチン、本当にあっという間で終わる。それですごい数の人を救うことができる。開発する人はものすごい研究を重ねて、臨床試験をやって、それでようやく製品になっているけど、そのバックグラウンド(背景)を知らないとあっという間にできているように思うけど、その裏にはいっぱい大変な仕事があるんですよ。でも、それで救えることができるんだったら、それはもう十分ペイする(報われる)。」

「僕らもみんな期待してるんで。」

「はい、分かりました。ありがとうございます。」

「ありがとうございます。」

マラリアがない未来を目指して。赤畑さん頑張って。



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