サイエンスZEROで全固体電池の最新情報を紹介!「ノーベル賞のさらに先へ!全固体電池の挑戦」

サイエンスZERO

こんにちは。

NHK Eテレで放送している『サイエンスZERO』。毎回毎回いま話題の最先端の科学と技術をとっても分かりやすく解説してくれるので、ワタクシの大好きな番組でもあります。今回は、2019年12月15日放送の「ノーベル賞のさらに先へ!全固体電池の挑戦」をご紹介します!

 

いま、リチウムイオン電池をはるかに超える新電池の開発が進んでいる。その名も「全固体電池」。液漏れのリスクがなく、高出力で充電時間も圧倒的に短い。電気自動車への利用が期待されているほか、風力や太陽光など発電量にムラがある再生可能エネルギーを蓄電し、必要な時に取り出すことも可能に。環境に優しい「脱炭素社会」へ向け世界を大きく前進させる革命的な技術だ。驚きの仕組みと開発秘話をお伝えする。




サイエンスZERO〜放送日と出演者

【放送日】2019年12月15日

【司 会】小島瑠璃子、森田洋平
【ゲスト】東京工業大学教授…菅野了次
【語 り】塩澤大介、石野竜三、大嶋貴志

【放 送】 毎週日曜 [Eテレ] 午後11時30分~0時
【再放送】 翌週土曜 [Eテレ] 午前11時~11時30分

リチウムイオン電池ってどんな電池?全固体電池との関係は?サイエンスZEROで詳しく解説!

2019年10月、リチウムイオン電池開発の功績によりノーベル化学賞を吉野彰さんが受賞しました。リチウムイオン電池はパソコン、スマホ、ハイブリッド自動車、電気自動車など、あらゆる製品のエネルギー源として使われていますよね。今皆さんが使っているリチウムイオン電池の中には、『電解液』という液体が入っていて、この液体のおかげで電池が利用できるんですが、「熱に弱い」とか「燃えやすい」とか「漏れる」とか、電池としてはまだまだ改良の余地があるんですね。全固体電池とは、この『電解液』という液体部分を『固体』にして安全性や電池性能を向上させたリチウムイオン電池のことなんですね〜

そして、全固体電池の特徴としては次の3つが挙げられています。

  • 熱に強くて安全
  • 容量がおよそ3倍に増加
  • 充電にかかる時間が1/3にまで短縮



全固体電池は実用化までどのくらいの位置にいる?開発者・東工大菅野教授が語る

全固体電池を開発したのは東京工業大学の菅野了次さん。30年以上にわたって電解質となれる個体を探し続けてきました。2019年時点で、実用化までの道のりを登山に例えると8合目あたりまできているとのこと。2020年代前半(つまり2025年あたり)に実用化できるように頑張っているとのことです。

ここに至るまでには3つのブレークスルーが必要だったようです。それは何でしょうね???

ブレークスルー1『固体電解質の発見!』

リチウムイオンを動かすために必須の電解質。液体電解質であればリチウムイオンは簡単に動くことができますが、同じことを固体電解質で実現するために30年もの歳月を要したとのこと。菅野さんは材料と分量を変えながら手探りで1000種類以上の電池を試したそうです。そして、2011年、ついに固体電解質を発見しました!

リチウム(Li)、ゲルマニウム(Ge)、リン(P)、硫黄(S)を組み合わせた化合物でした。(Li10GeP2S12)

ブレークスルー2『ゲルマニウムを使わない固体電解質!』

ゲルマニウムは価格が高い元素のため、これを別の元素に置き換える必要があったとのこと。元素の周期表で、ゲルマニウムの上下左右にあるシリコン、ガリウム、ヒ素、スズがその候補。周期表で近くにある元素は近い性質を持つことがその理由。久々に周期表を拝みました〜

ですが、そう簡単には適切な物質が見つけられなかったようです。ゲルマニウムを使った場合に比べてイオンの動きやすさを表す「導電率」が半分以下になってしまうみたいです。

菅野さんの研究室に企業からやって来た研究者が非常に多くこなした実験結果から、「塩化リチウム」を使った時に導電率が良くなることを発見しました!

その結果、2016年にゲルマニウムの代わりにシリコンと塩素を含む固体電解質ができました!(Li9.54Si1.74P1.44S11.7Cl0.3)

この新しい固体電解質、リチウムイオンの通り道が太くなり、通り道の間の横のつながりもできたことでイオンが3次元的に動き回れるようになったおかげで、今までのものよりも3倍の電気を流すことができるようななったとか。材料費が下がっただけでなく、ものすごい性能アップまでできちゃったんですね〜すごい!

電流が3倍取れるということで、充電時間は1/3に短縮、パワー(放電)は3倍 が期待できるようです。

ブレークスルー3『界面の問題解決!』

ブレークスルー2でゲットできたイオンの3次元的な動きのおかげで電気が流れやすくなったんですが、これが悪さをしてしまう現象が起こったようです。それを「界面の問題」と呼んでいます。

開発中の全固体電池では、プラス極に「コバルト酸リチウム」という酸化物を使っています。これに接するようにして固体電解質が置かれています。固体電解質は硫黄を含む硫化物ですが、イオンを引き付ける力が 酸化物>硫化物 であることから固体電解質側からプラス極側にリチウムイオンが引っこ抜かれてしまうようです。で、固体電解質のイオンがいなくなってしまうことでこの部分が壁となり、電気が流れにくくなってしまう現象が起こったんです。

理想的な固体電解質ができたものの、もう一つ超えるべき課題がでてきました。これに挑んだのが物質材料機構の高田さん。高田さんはプラス極と固体電解質の間にイオンが引き抜かれるのを防ぐナノレベルの薄い膜を入れました。この膜は「チタン酸リチウム」の薄い膜で、この膜をつけただけでパワーが3倍になりました!全固体電池は「3」という数字が好きみたいですね〜

東工大・菅野さんが語る!全固体電池のこれからの展望

私たちが使うデバイスや電池にするためには、全固体電池をどのようにして組み立て・製造していくかというプロセスの技術開発が必要で、ここが今大きな課題になっているとのこと。

そして、今後は国が主導して、自動車メーカー、電機メーカー、電池メーカーが集まって車用の大きな固体電池を作る開発プロジェクトが立ち上がったところとのこと。2020年代前半の目標達成に向けて推進中。

全固体電池の登場によって、身の回りのデバイスがどんな姿に進化していくのかすっごく楽しみですね!


サイエンスZERO〜放送内容文字起こし

吉野彰さんがノーベル化学賞を受賞したリチウムイオン電池。今その先を目指す更なる新型電池の開発が日本で進んでいます。それが全固体電池。ノーベル賞を記念して、再び特集です。
まずは、リチウムイオン電池の実力をご覧いただきましょう。

2018年6月24日
場所は筑波サーキット。走っているのはすべて電気自動車です。このスピードを支えているのがノーベル賞のリチウムイオン電池。高い出力の電池があってこそレースが成り立ちます。でも、リチウムイオン電池にもまだまだ課題はあります。
課題その1
この自動車レース、予選と決勝の間に5時間半も空いています。何をするかというと・・・。充電。 レースは55kmを走るのですが、予選で電池を使いすぎると55kmを走りきれないこともあるので、充電タイムが5時間半も必要なんです。
課題その2
レースの勝敗を分ける最大の要因は電池の容量です。優勝候補筆頭はゼッケン2番のこちらの黒い車。最も大きい電池を積むアメリカの「KUROFUNE」です。しかし、電池が大きくても乗り方を間違えると思わぬ負けを喫してしまうところが、電気自動車の怖いところだといいます。
「バッテリーをもたせる走り方だったり、熱にどうしても弱い部分があるのでその辺をいかにしてコントロールするかだったり、感じてみたいなと思っています。」

あえて間違った電池の使い方をした実験です。リチウムイオン電池は高温になりすぎると発火する危険があります。 2つ目の課題は「熱」。電気自動車は安全のため電池が熱をもつと自動的にスピードを抑えます。そのためドライバーには、熱を発生させない効率的な走りが求められるのです。

電池の性能を極限まで使う電気自動車レース。でも、この電池の制約はもうすぐなくなるかもしれません。
実は日本の研究者が執念を燃やし、30年かけて全く新しい電池を開発したのです。それがこの全固体電池。リチウムイオン電池の3倍もの電気を貯められ、高温でも使える夢の電池です。一体どんな電池なのか、その正体に迫ります。

今回のテーマは「電池」ということでしたけれども、かなり迫力あるレースをもう電気自動車でできていたんですね。
実は今の国産の市販の電気自動車、最高でですね航続距離400kmぐらいというふうにいわれているんですけども、全力で走る先ほどのようなレースですと55kmももたないのではないかとも言われているんです。
そして今までとまた概念が全く変わる電池が今回のテーマなんですね?
はい。それが今日の主役、全固体電池。優れた点が全部で3つありまして、熱に強くて安全だということ。容量がおよそ3倍に増えるとも言われています。更に充電にかかる時間は1/3にまで縮められるのではないかと。
何でそんな魔法みたいなこと起こるんですかそ?
それがですね、材料を全て個体にしたからなんですよ。

全固体電池を知る前に、まずは現在のリチウムイオン電池をおさらいしましょう。プラス極とマイナス極の間にある電解質には液体が使われています。電球をつなぐと、リチウムが電子とリチウムイオンに分かれ、電子が回路を通ることで電気が流れます。同時にリチウムイオンは電解質を通り、再びプラス極で合流します。充電器をつなぐと逆の反応が起こり充電できるのです。
リチウム電池ってすごいんですね。
ただ問題もあるんです。一つは漏れてしまうっていうことなんですね。それを防ぐために液体を使ってる電池には丈夫な箱やセパレーターが必要なりまして、電池自体の大きさが大きくなってしまう。更に液体の中には 色々なものも溶け込んでいるので、高温になると化学反応を起こして余計な物質が電極についてしまうんです。すると、あの中を通っていたリチウムイオンが移動しづらくなり劣化にもつながる。液体がすべて個体になるとリチウムイオン以外も移動しないので、熱に強くて電気自動車に向いている。

そうか。だから安全性が上がる。大きさは小さくなる。そういうことだったんですね。
そこで今回は、実用化までの道のりを登山に例えてみました。目標としては2020年代の前半。およそ5年後までに全固体電池の電気自動車の実用化を目指している。
こんな近いんですか?
ええ。今は8合目あたりまで来ているイメージなんです。
ふーん。
でも、実はこの山自体がとても高く、そして登ったこともない山だったんですね。
前人未到ってことですね。
ですからこの8合目まで来るのに、30年以上の研究の月日が費やされたわけです。
何てこった。

全固体電池を開発したのは東京工業大学の菅野了次さん(教授 科学技術創成研究院)です。30年以上にわたって電解質となれる個体を探し続けてきました。
実は菅野さんが全固体電池の研究を始めて10年くらいしたところで大きな出来事が。液体を使ったリチウムイオン電池が実用化されたのです(1991年リチウムイオン電池の実用化)。そんな中、菅野さんは全固体電池にこだわって研究を続け、実用化の一歩手前まで来ました。その背景には3つのブレークスルーがありました。

ブレークスルー1「固体電解質の発見」
1つ目が、最も大事な「固体電解質の発見」です。リチウムイオンを動かすためにどうしても必要な電解質。これが液体であれば、塩が水に溶けるようにリチウムイオンも簡単に動くことができます。しかしこれが個体となると、ほとんど反応を起こさないためイオンが全く動きません。何とかしてイオンを通すことができる特殊な物質を作り出さなければならないのです。候補となる材料は山ほどあります。菅野さんは30年もの間、材料を手探りで配合し続けてきたのです。材料と分量を少しずつ少しずつ変えて、作った電池はなんと1000種類以上。そしてついに2011年個体の電解質を見つけたのです。それがこの粉。リチウムとゲルマニウム、リンと硫黄を組み合わせたものでした(Li10GeP2S12)。
横軸は電池の持つエネルギー量(kW/kg)。縦軸は流すことのできる電気の出力(Wh/kg)。
液体を使ったリチウムイオン電池はだいたいこのグレーの範囲に入ります。菅野さんが作った全固体電池はというと、個体を使っているにも関わらずほぼ同じ性能が出せたのです。

固体電解質の発見によってこの山、大体7合目あたりまで登ることができたということなんですね。2011年のことでした。
まさか、本当に手探りで、その配合を見つけていったとは。気の遠くなるような話ですよね。

さあ、更に詳しくは実際に全固体電池の開発に携わりました、東京工業大学の菅野了次さんに直接伺っていきます。
よろしくお願いいたします。

この全固体電池、その動きが速いということが、電気がスムーズに通るって事と等しいんですか?
はい。固体の中をリチウムイオンが速く動くと、電池にした場合には電流がたくさん取れるということになります。
ちょっとイメージがね、湧かないんですよ。個体の中を物質が移動するって、すごく固い頭だと、もう、だからこういうことなので。
固体でリチウムが液体並みに動くというのは、もう、我々にとっても大変不思議な現象なんですけれども。でも、結晶構造を調べてみますと、その個体の中にリチウムイオンが動く通り道が存在している。
こちらをご覧ください。

これが、リチウムとゲルマニウム、リン、硫黄で作っている結晶の構造なんですね。間にある緑色のものがリチウムイオンなんです。もう一枚ご覧ください。右側の図は、リチウムイオンだけを取り出して、この構造の中でどのように分布しているか示した図です。これを見ると、リチウムイオンが上から下に動き回ってるという様子がよく分かる図になっています。
固体になってる全部の所に充満してるわけではなくて、結構集合して、移動してるって事ですか?
はい。この場合はゲルマニウムとリンと硫黄とリチウムの一部がガッチリとした、動かない骨格構造を作っていて、一部分のリチウムがまるで液体のよう動いてる。
うーん。あっ、そういうことなんですね。あの配合っていうのは、どれくらい微妙な差でどれくらいの差が出るんですか?
周期表というものがあって、そこから元素をピックアップして物質を作り出すんですけれども、これまでの知識からどのような元素をどのような割合で組み立てると物質が出てくるというまあ大体予想はつきますね。でも実際にその性質が出てくるかどうかっていうのは実際に物質を作ってみないと分からないので。それは「この組み合わせでうまくいくかな?」って作ってみて自然に聞いてみて「ああ、やっぱりそれは駄目なんですよ」っていう回答が返ってきたりすると「それじゃこういう組み合わせ、この割合でいいですか?」って試すと「あっ、その割合でいいですよ」っていう物質との会話を交わしながら物質を作り出していくという作業を長い間やって、ようやく液体並みのものが見つかったということです。
なかなか、でも、思うような結果が出ない時期とかいろんな段階があるとは思うんですけど。
イオンの動きがそれほど良くない時というのは、やはり物質はそうは考えてないんだなというのを読み取るというのは、またそれも面白いところですね。
すごいですね!
そしてこの山の7合目まで来たわけですけれども、固体電解質実用化に向けてはある課題、あったんですよね?
それはゲルマニウムというのが少し価格が高い元素ですので、このゲルマニウムをもう少し使いやすい元素に置き換えるということが次の課題としてありました。

ブレークスルー2「ゲルマニウムを使わない固体電解質」
周期表で見ると2011年に見つかった固体電解質はリチウム、ゲルマニウム、リン、硫黄の4つを使っていました。このうちのゲルマニウムを他の物質に代えなければなりません。そこで注目したのが、その周りのシリコン、ガリウム、ヒ素、スズです。近くにある元素は近い性質を持っているからです。
周期表ってすごいものですね。
そこでこれらの元素を使って固体電解質を作る研究を進めました。しかしゲルマニウムを他の元素に置き換えると、イオンの動きやすさである導電率が半分以下になってしまうこともありました。なかなかうまくいかない中で研究員が不思議なことに気がつきました。塩化リチウムを使った時にイオン導電率が少し良くなるように思えたのです。
塩化リチウムは塩素とリチウムの化合物です。この塩素は電池にとって不純物でしかないため注目していませんでした。しかしゲルマニウムの代わりにシリコンを使いほんの少し塩素を添加したところ、それまでの性能をしのぐ固体電解質が2016年にできたのです。
ゲルマニウム入りの固体電解質のイオンの通り道はこうなっていました。それに比べて新しい固体電解質はイオンの通り道が広がり、まるで高速道路のようになっていたのです。電池の性能を調べるとなんとゲルマニウム入りのものの3倍もの電気を流すことができたのです。(Li9.54Si1.74P1.44S11.7Cl0.3)

はい。というわけで、ゲルマニウムを使わない固体電解質ができたことで、少し山を登ったというわけなんですね。
これ、しかも同時にこのよりイオンが通るようになっている。先生これはほんとすごいことですけれども、塩素という不純物を入れるっていう事で性能が上がる?
はい。少し別の元素を加えることによって、元の物質の性質をさまざまに変えることができます。たまたま塩素というものを入れた時にリチウムイオンががよりよく動きやすくなったということですね。
物質の、それぞれの性格を読み取る。それはどれだけたくさんの物質に触ってきたかっていうことが重要になってくるっておっしゃってましたね。
この物質の場合は、企業から来られた研究者の方が非常に多くの実験をされて、それでこの非常に複雑な組成でこの物質が存在して、それでリチウムイオンが非常によく動くというのを見つけた。
通り道も太く、あと、こう、横にも行っているんですか?あれは。
縦の4本に加えて、横もつながってるんですね。3次元的にイオンが動き回るということがこれから分かります。
2次元から3次元に動き回れるようになったってことはかなり大きいことなんですか?
そうですね。実際この物質を電池に使う場合には粉末の形で使うんですけれども、その粉末を組み合わせた時にやはり一方向にしか動かないと、この粒子と粒子の間で止まってしまいますけれども、3次元的に動くとどういう形をしててもスムーズに動き回るというので、3次元的に動き回るというのは実際に電解質に使う場合には大変重要です。
で、動きやすさ、3倍になっているということなんですね。
3倍。うーん。
電流が3倍取れるということなので、充電それから放電の電流がたくさん取れるということになります。
だから充電が速くなる。1/3になる。
はい。基本的にはそう考えています。
パワーも3倍になると。そしてずっとリチウムイオン電池の問題となっていた熱っていうところとの相性はどうなんでしょうか?
はい。この固体は500℃に上げて物を作りますので、500℃までは安定という。
500℃に上げて作ってるんですか?そもそも。
えっ、電気炉に入れて焼いて合成する。従って500℃まで安定ということ、電池にした場合には電極と電解質に反応もありますから500℃までは上げられないんですけれども、100℃でも150℃でも電池としては動くだろうということは予想できます。
電流は高い温度の方がよく流れる(液体電解質:危険なため不可能、固体電解質:可能)

高温でも使える可能性、実験の結果で示されているんです。はい。こちら100℃の環境で電池の性能を調べたグラフ(横軸:充電回数[回]、縦軸:充放電効率[%]@100℃)なんですけれども、充電と放電を1000回繰り返しても全く劣化しなかったんですね。
ふーん。リチウムイオン電池は100℃では使えないんですよね?
そうですね。リチウムイオン電池は安全性の問題もありますので、60℃以下で使うように今設計されてます。


ブレークスルー3「界面の問題解決」
というわけで、更に山を登ったわけですが、まだそ頂上まで道のりがありますよね。実は解決しないければいけない問題がもう一つあったんですよね。
はい。界面の問題というのがあります。
ちょっと模式図、ご覧ください。

電極があってその挟まれる形で固体電解質がありますけれども、リチウムイオンが流れていく、その境にですね、界面と呼ばれるものがあるんですね。とてもイオンの動きが素晴らしい固体電解質ができたんですけれども、それを使って電池を作ると、思ったほど電気が流れなかった。
壁になってしまっているってことですか?
そこでイオンが動かなくなってしまうってことに。
その壁はどんな壁なんですか?何が壁になっているんですか?
物質材料研究機構の高田和典さんです。高田さんは固体電解質が硫黄の含まれた硫化物であることが問題ではないかと考えました。
開発の進んでいる固体電池、電解質に硫化物を使っています。なぜ硫化物がいいかというと、イオンが高速で流れる、電気を流れやすくなって電池としては大きな電流が出るんですけど、今度は逆にプラス極がリチウムイオンを引き抜こうとした時にあっさり引き抜かれてしまう。
プラス極に使われているのはコバルト酸リチウムという酸化物。一方、固体電解質は硫黄が含まれた硫化物です。これをくっつけると、酸化物の方がイオンを引き付ける力が強いために、もともと固体電解質にあった背面のリチウムイオンを引き抜いてしまいます。すると空間ができて不均一になります。これがイオンにとっての壁になってしまうと考えたのです。

どうしてそんなこと考えつくんだ。えー。

そこで高田さんはプラス極と固体電解質の間にイオンが引き抜かれるのを防ぐ膜を入れることにしたのです。
その作り方を見てみましょう。
プラス極の物質を装置にセットします。電圧をかけると下の白い部分が光り始めました。ここにあるのが薄い膜の材料チタン酸リチウムです。プラズマでその分子を霧吹きのように飛ばすことでプラス極の上にナノレベルの薄い膜ができます。ピンク色に見えるのがチタン酸リチウムの膜。これを固体電解質と混ぜて電子顕微鏡で見てみました。固体電解質とプラス極の間に数ナノメートルの膜が入っているのが見えます。この状態で電池を作り、性能を調べてみました。膜がない場合、出力は200ワット程度でしたが、膜をつけただけで600ワット。3倍以上になったのです。

通りやすいほうがいいんじゃないかと思ってしまうんですけれど、あまり一斉に行ってしまうとあそこに空間ができてしまうと。だから皆でそろって一定のスピードで移動するってことが効率の良さってことなんですか?
そうですね。実際に間に入れた層がどのような役割をしているかというのは本当のところはまだよく分かっていないところです。
そうなんですか。
でも、あの1層入れないとうまく動かないということはわかっていますので、そこでどういう現象が起こってるかというのまだもう少し詳しく調べて、もっとよく動くような状況にならないかというは今の研究で進んでいます。
まさに、その界面の問題解決することでまたさらに山を登れたということなんですよね。
先生これ今何合目ですか?
まあ、9合目まで行ったと思いたいんですけれども、まだもうちょっと下かもしれないですね。
あっ、本当ですか。
頂上に近くなればなるほど登るのが厳しくなる。今も多分そういう状況かと思います。我々が使えるようなデバイス、電池そのものに仕上げるというにはどのようにして電池を組み立てるかというプロセスの技術開発が必要になります。そこが今、大変大きな課題になっています。
このあとというのは、先生、この研究はどういうふうに進めていかれるんですか?
固体電池のプロジェクトとしては今現在、国が主導で、自動車メーカー、電池メーカー電機メーカーが集まって、車用の固体電池を、大きな電池を作ろうというプロジェクトがつい最近スタートしました。
そうなんですね。
2020年代前半の目標が達成できればいいなと思っていますけれども。
2020年代前半には電気自動車っていう形になってますけれども、携帯電話でもいいんじゃないんですか?
そうですね。こういう新しい電池ができるとなるとまたそのデバイスとしても別のデバイスができるではないかと。いろんな発想が多分広がると思います。
先生の一つ、こう生み出した魔法の種みたいなものを、どこに植えるか、どう育てるかによって全然また違う花が、こう咲きそうですよね。この全固体電池で人々の生活が変わってるところを先生見たら、どんな気持ちになりますかね?
見たいですね。実用化できて、この世界がもしそれで少しでも変わるんであれば、この基礎研究に携わってる研究者としてはもう大変ハッピーですね。

ありがとうございました。

「サイエンスZERO」次回もお楽しみに。



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