サイエンスZEROで自己治癒コンクリート&セラミックスを紹介!キズが勝手に治るそのメカニズムに迫るゾ🎶

サイエンスZERO

こんにちは。

NHK Eテレで放送している『サイエンスZERO』。毎回毎回いま話題の最先端の科学と技術をとっても分かりやすく解説してくれるので、ワタクシの大好きな番組でもあります。今回は、2020年2月23日放送の「キズが勝手に治る!自己治癒コンクリート&セラミックス」をご紹介します!

劣化によってできたコンクリートのヒビが独りでに直る。セラミックスのキズがわずか1分で埋まる。こうした驚きの新素材が登場し注目を集めている。開発の背景にある科学者のユニークなアイデアを楽しむ。オランダでは生物と餌を生分解性プラスチックに閉じ込め、それらをコンクリートに混ぜることで自己修復に成功。日本では物質材料機構が人間の骨折が治るメカニズムをヒントに、自己治癒セラミックスの開発に成功した。




サイエンスZERO〜放送日と出演者

【放送日】2020年2月23日(アンコール:初出2019年9月29日)

【司 会】小島瑠璃子、森田洋平
【ゲスト】東北大学准教授…西脇智哉、物質・材料研究機構主幹研究員…長田俊郎
【語 り】川野剛稔

【放 送】 毎週日曜 [Eテレ] 午後11時30分~0時
【再放送】 翌週土曜 [Eテレ] 午前11時~11時30分

 



自己治癒コンクリートとはどんなコンクリートのこと?サイエンスゼロで解説🎶

コンクリートは練り混ぜる際に大量の水を使いますが、セメントとの水和反応や乾燥によって水分は失われ、コンクリートには収縮ヒビ割れが発生しちゃうもの。このヒビ割れの発生をコンクリート自身が検知し、自己修復するものを自己治癒コンクリートと呼びます。さらに、自己治癒コンクリートは自然治癒、自律治癒、自己修復の3つに分類され、番組で紹介するオランダの自己治癒コンクリートは、コンクリートの中にバクテリアカプセルを混入することで、ヒビの自己修復を行う自律治癒に分類されるようです。

今回サイエンスゼロで紹介されるたのは、オランダのデルフト工科大学で開発されたもの。日本の企業でもこの技術を使った製品かの研究が行われているようです。それではさらに詳しく見ていきましょう!

自己治癒コンクリートはどんな経緯でどこで開発されたもの?

2006年に自己治癒素材開発のプロジェクトがオランダのデルフト工科大学で始まり、学術分野を横断する大規模なものだったようです。土木工学と海洋微生物学の意外なコラボがスタートしました。

自己治癒コンクリートの治癒メカニズムはどうなってるの?

コンクリート構造物には通常は鉄筋コンクリートで作られています。ビルや新幹線の橋脚なんかで見たことあると思いますが、コンクリートの中に鉄筋が入っていますよね。これは引っ張られる力に強い鉄筋の特徴と、圧縮される力に強いコンクリートの特徴を上手く組み合わせた構造なんですね。ただ、鉄筋はその名のとおり鉄でできているので空気に触れると錆びてしまい、錆びを放っておくと鉄筋コンクリートはボロボロになって強度が下がっちゃうんです。

なんで鉄筋が錆びちゃうかというと、コンクリートのヒビが問題になるんです。このヒビ、コンクリートが固まる際の収縮で入ることもあるし、長い期間使っているうちに劣化して入ることもあります。このヒビを伝って空気や水分が鉄筋に辿り着いてしまうことで錆びが発生することになるため、ヒビを直すことがコンクリート構造物を長く使うためには重要になってくるんですね。

ただ、ヒビを補修するにしても簡単にはたどり着けない場所に設置されていることもあるため、コンクリート自身で自己治癒させる技術の探索が続けられていたようです。その一つの解決策としてできたのが、コンクリートに使うセメントの原材料となる石灰岩(炭酸カルシウム)を生成するバクテリアをコンクリートに埋め込むという技術。ヒビを埋める手順はこんな感じ。

  1. 好アルカリ性バシラス属というバクテリアとその餌を生分解性プラスチックでコーティング
  2. バクテリアチップをコンクリートに混ぜ込んで鉄筋コンクリート構造物を施工。
  3. コンクリートがヒビもなく健全な場合はバクテリア周辺に空気(酸素)がないためバクテリアは休眠。
  4. コンクリートにヒビが入ることによって酸素と水に触れてバクテリアが活動開始し、周りの餌を食べて炭酸カルシウムを排出。
  5. バクテリアの出す炭酸カルシウムによってヒビが埋まり鉄筋が守られる。
  6. ヒビが埋まると酸素がなくなりバクテリアは再び休眠。

このバクテリアは休眠状態で200年も生き続けられるそうな。日本の企業がこの技術を応用してコンクリート製品を開発中で、強度改善のために開発元のデルフト工科大学にチップの改良を依頼し、さらに細かい粒子(粉状)のものが使われているようです。実用化までもう少しみたいですね。




自己治癒セラミックスでジェットエンジンのキズも1分で完治!サイエンスゼロで解説🎶

ジェットエンジンのタービン翼に自己治癒セラミックスを使って、燃料代(とCO2)を大幅に削減しようとする挑戦が続けられています。詳しく説明してくれたのが茨城県つくば市にある、物質・材料研究機構の長田さん。自己治癒セラミックスは治癒することで強度も回復するとのこと。ジェットエンジンのタービン翼は、エンジン内で燃料が爆発した後の1000℃の高温ガスにさらされる部分。この部分の損傷を1分で自己治癒させる技術になるんですね。

自己治癒セラミックスの治癒のメカニズムは?

セラミックスが自己治癒するという現象は1995年頃に見つかっていたそうですが、当時は1000℃で1000時間以上かかっていたとのこと。そして治癒メカニズムはまだ分かっていませんでした。それからいかに治癒時間を短くするか研究が続けられてきて、ついに1000℃の環境下で1分で自己治癒できるようになったんですね〜

長田さんは、特殊な顕微鏡でセラミックス内部のキズを観察・解析をすることでヒビの中にガラスのように「どろっと溶けた二酸化ケイ素」が入り込んでいることを見つけました。「どろっとした二酸化ケイ素」は、本来硬くて固体の二酸化ケイ素にアルミナがちょっとだけ混ざることでできるもの。二酸化ケイ素が結晶化して固体となることで強度が回復するというメカニズムなんだどか。

自己治癒の時間を1000時間から1分に!6万倍のハイスピード修復を達成!

アルミナがちょっとだけ混ざったことでどろっとなる温度(ガラス転移温度 というそうな)が1000℃ほど。1000℃ってのはどろっとするかしないかの境目の温度だったから治癒に1000時間以上かかっていたようです。このガラス転移温度を下げるための素材を探した結果、酸化マンガンをちょっとだけ加えて、セラミックス内に網み目状に配置することで劇的に治癒時間の短縮ができ、1分という驚くべき短時間が実現できました。

実用化はいつになるんでしょうね〜???楽しみに待ちたいと思います!



サイエンスゼロ〜放送内容(ほぼ)全文

老朽化したマンションや橋。日本中で使われるコンクリート劣化が問題になっています。
さてこの問題「サイエンスZERO」的にはどう解決しますか?小島さん。

私?え〜そうですね。埋めたりとかコンクリートを足したりですか?
普通はそう考えますよね。
恥ずかしい。
今回ご紹介するアイデアはもっとすごいもの。それは、自己治癒コンクリートです。コンクリート自らが傷を治すことができるんです。 さあ、見ててください。 こうしてわざとひびを入れ、水に浸します。すると、ヒビの間に白いものが。アップで見るとこの通り。1ヶ月もすればひびが塞がっちゃうんです。皆さん信じられますか?

開発されたのはオランダ。国土の1/4が海面より低いオランダでは、水路の下に高速道路が通るという不思議な光景も見られます。そんなオランダでは土木の研究が盛ん。ここデルフト工科大学で開発されたのが自己治癒コンクリートなのです。開発者はヘンドリック・ヨンカースさん(海洋生物学 准教授)。土木とは全く分野の海洋生物科が専門です。自己治癒コンクリートの開発に携わるようになったきっかけは意外なものでした。

私は海の中の微生物の生態を研究する海洋微生物学が専門です。 デルフト工科大学では2006年に自己治癒素材の大規模プロジェクトが始まり、コンクリートにバクテリアを使うことが可能かを尋ねられました。実はバクテリアの中に石灰岩(炭酸カルシウム)を生成するものがいて、それがひびを埋めてくれればコンクリートの自己治癒が可能かもしれないというアイデアから共同研究が始まったのです。ヨンカースさんが発見したバクテリア。その中に、好アルカリ性バシラス属という種類がいます。 これが貝殻やサンゴの骨格の成分である炭酸カルシウムを作ります。

しかしコンクリートにバクテリアだけを入れても餌がなくてすぐに死んでしまいます。バクテリアが餌をすぐに食べられる環境を作ってあげる必要がありました。 ヨンカースさんの試行錯誤が続きました。

最初は単純に粘土で団子状のものを作りましたがコンクリートの強度が下がって使えませんでした。最終的にたどり着いたのがこの粒々。 バクテリアと餌を生分解性プラスチックでコーティングしたものです。

コンクリートの中にこの粒を混ぜます。この状態は酸素もなくバクテリアにとっては極限状態なのでバクテリアは粒の中で休眠します 。そこにひびが入ると水と酸素が流れ込みます。

すると・・・。
バクテリアが目覚めます。 目覚めたバクテリアは腹ペコなのでエサを食べ始めます。すると炭酸カルシウムと炭酸ガスを排泄します。これいわばうんちとおなら。こうして出た炭酸カルシウムが傷を埋めていくのです。すっかりひびが埋まると酸素がなくなり、バクテリアまた休眠します。
これはナイスアイディア。しかもバクテリアはこの状態で200年も生存が可能だというのです。
こうして自己治癒コンクリートが誕生したのです 。

このコンクリートの実用化を目指したけた研究が、日本でも行われています。(北海道

現在日本では社会基盤を担うコンクリート構造物の老朽化によって保守費用が膨らんできています。本技術によってコンクリート構造物の長寿命化と補修費用の低減に役立てて行ければと思っています。

でも最初に自己治癒コンクリートを作った時に問題が起きました。これがそのコンクリート。見た目が悪くとても使用できそうにありませんでした 。そこでヨンカースさんに粒子の改良をお願いしました。その結果できたのがこの粉状のもの。

今度は見た目も OK。治癒能力も申し分ありません。

現在この会社では水路などに使うコンクリート製品への利用に向けて研究を進めています。

海洋生物からヒントを得てバクテリアをコンクリートに持ってきたんですね。でも本当に「サイエンスZERO」やってると、絶対結びつかないだろうって思うような分野が結びついた時にすごい結果が生まれる時が多々ありますよね 。

初めて国際会議で見たんです。その時は変わったことする人がいるなぐらいの感じだったんですが、こんなにちゃんと使えるような技術としてここまで伸びてくるとは正直思ってなかったですね。

こちらがそのバクテリアによって自然治癒したコンクリートです。
これが炭酸カルシウムですか?出てきてますね。 これ、水と酸素が入ってくるとっていうふうに言ってたじゃないですか。雨に当たらないようなところにもコンクリートありますよね。それって空気中の水分だけでも水っていうことになるんですかね?
これはもう少し大量の水が必要です。
じゃあ本当に水路だったりとか、実際に水が通っているようなところの方が都合がいいんですかね?
そうですね。水路でしたら十分な水があって、なおかつそこにひび割れが出ていると、中の鉄筋が常に水にさらされている状態ですから、それは腐食のリスクが高いのでそういうところには適した材料だと思います。
強度はどうでしょうか?
これは強度は回復しないんですね。
なるほど。強度は回復しないとなると雨と水が防げるようになったということ?
コンクリートは鉄筋コンクリートって言うじゃないですか。鉄筋コンクリートはほぼ必ず鉄筋とセットで使われるんですよ。鉄はどうしても錆びますので、錆びる原因は水と酸素なので、ひび割れを直す目的が鉄筋を守ることなんです。
塞がりさえすれば鉄筋の部分が守れるっていう、そういう発想だってことですね。
コンクリートに自己治癒っていう能力を与えるという発想ってどこから湧いてきたものなんですか?
元々コンクリートそのものは化学反応で固まるんですけれども、もすごく小さいひび割れであれば勝手に埋まるというポテンシャルはもともと持っています。ただ一方で0.3 mmの幅の大きなひび割れなんかだと大きすぎてなかなか埋めるのは簡単じゃないというようなところがありましたので、ポテンシャル上げようという研究は昔からあったんです。
西脇さんが研究しているのはまた別の方法の自己治癒コンクリートのですよね。
そうですね。繊維補強コンクリートとかって呼んでるんですけれども。
繊維補強コンクリート。
そうです。ひび割れがあってそのひび割れを細い糸みたいなのでつないでいるようになってるんですけども、あれが繊維です。例えばポリプロピレンとかポリビニルアルコールとか、いわゆる化学繊維。コンクリートそのものにひび割れを埋めていくポテンシャルはありますので、その繊維によってひび割れの幅を0.1mm以下とか0.05mmとか小さくコントロールしようというのが私がやってるところです。
これ、先ほどの技術と一番違うところはどこですか?
繊維補強は自己治癒を目的としたものではなくて、コンクリートを粘り強くするためにすごくいっぱい使われているんですよ。既にある技術のポテンシャルをちょっと引き上げてやろうという形ですのでもうちょっと実用化に近いといいなとは思っています。
将来的にどういった場所で活用されて欲しいなというふうに思いますか?
どうしても人が近づけない所とか、人がそう簡単にはたどり着けないような所。例えば、そういう地下鉄の線路であったり。地下構造物っていうと、大体地下水を背負ってることになりますから、そういう所はまた補修しに行くのも大変ですので。
コンクリートに自分でやってもらいましょう。
コンクリートに自分でやって頂いた方がいいだろうと。
我々のまわりの建造物か、どんどん自己治癒コンクリートに変わっていく未来が、もしかしたら広がってるかもしれないですよね。
もうすぐかもしれない。



続いて自己治癒素材を使ったもう一つの夢の計画をご紹介。現在、飛行機のジェットエンジンは金属で作られています。その一部、熱風を排気して動力にかえるタービンの羽に、軽くて強い自己治癒素材のセラミックスを使おうというのです。これが実現すれば、車や発電所の部品にも導入でき、大幅な二酸化炭素の削減につながると期待されています。

物質・材料研究機構の長田俊郎さんです。よろしくお願いします。
実際どういう素材なのかお持ちいただいたんですよね。
こちらにあるものです。すごい小さいんですけど。セラミックスという素材です。
軽いんですね。ちょっとプラスチックぐらいの重さですか?
そうですね。プラスチックよりは重いんですけど、大体金属の1/3ぐらいの軽さになっています。
これも自己治癒する?
そうなんですね。
小島さん、セラミックスというと、いわゆる陶器っていうイメージなんですよね。
でも焼き物は割れたら終わりっていうイメージがありますね。
そうですよね。
陶器は実は小さい亀裂が表面たくさんあって、それが原因で落ちるとバリンと割れてしまう。なので小さい亀裂を未然に直したいというのが自己治癒セラミックスで、我々は高温で、先ほど紹介いただいたジェットエンジンとかで使いたいので、1000℃という温度で1分以内に直るような材料を作っています。
1分以内ですか?すごい。よくジェットエンジンの中って、何か鳥だったりとかゴミとかクズが入って、火が出て動きが止まるっていうのも・・・。
それが一番危ないですね。私が使うのはその入り口部分じゃなくて、一番後ろのタービン部分。一番熱い所なんですけど。
ちょっとご覧いただきましょう。
先ほどおっしゃっていたバードストライクみたいな、ものがぶつかるのは一番左の部分のファンブレードというところです。そこから空気入ってきて燃料と空気が混ざって爆発します。その膨張するエネルギーを後ろの歯車で回転力に変えて飛んでいるという機構になっています。このエンジンの効率を一番決めるのが後ろのタービン部の温度ということになります。
心臓部分ですね、飛行機の。でも、1000℃で1分以内に直るんですか?キズが。
そうですね国内線の場合だと、巡行して空を飛んでる時間はだいたい1時間ぐらいなんで、そこの時に小さな亀裂が発生してもすぐに直して着陸に備えるためには、1時間以内、10分、1分という目標で研究をしてきました。
空の上で修理して戻ってきてくれる夢のような素材ですね。
この素材のすごいところはですね、強度も回復するっていうことなんですよ。
強度も回復する?
実際に確認してみましょう。

自己治癒セラミックスの強度はどれほどなのか?(茨城 つくば市 物質・材料研究機構)
こちらは実験用の小さな自己治癒セラミックスです。これにわざとひびを入れ、顕微鏡にセットします。
黒い部分がキズ。頂点の所からこのようにひびが入っています。
温度上げて行きます。970。980。1000℃になると、 急に黒い線ができました。黒く見える治癒物質がひびを埋めたのです。
3次元顕微鏡で見てみると、盛り上がった赤い線があります。ひびがふさがった証拠です。
肝心の強度はどうか?

普通に考えたらヒビが入って弱くなった部分から割れる壊れるはずです。
折れた!
どこから折れたのか詳しく見てみると、治癒した部分は無事。別の場所で折れていました。つまり、治癒した部分の強度が十分回復していることが示されたのです。

すご〜い。もうじゃあほんとに強度も戻っている。あそこからポッキリいくんじゃないかと思いましたけれど。
普通だとそう考えますよね。
すごく目に見えて「おっ!」って分かりやすい実験でしたね。
そうですね。他の場所より強くなってるんですか?他と同じくらいまで戻ったんですか?それとも超えたんですか?
超えてますね。セラミックの強度は実は結合の状態とかよりも、中にある小さな欠陥の大きさで決まるんですね。亀裂を入れるとそれが一番大きな欠陥なんですけど、それさえなくなってしまえば、他の場所から壊れる。
わ〜面白い。もともと小さな欠陥があるのか。怪我したところは本当にツルツルに直るから。
元通りになるということですね。
すごい。男の子みたいですね。転んでキズができて、また強くなって。すごいですね。
確かにそうかもしれませんね。
でもこれ、簡単に直ったように見えますけれども、ここに至るまで、さまざまな苦労があったようですね?

そうですね。まず言わなきゃいけないのは、私が横浜国立大学にいた時の恩師の安藤柱先生が、1995年頃にこの現象見つけていました。 でも当時の材料は1000℃だと1000時間以上治癒までに時間がかかってしまうような材料でした。
40日以上かかるっていうことですよね。
そういうことになりますね。なのでそれをしっかりメカニズムを解明して、より早い時間で直そうという研究をずっとこの15年ぐらいしてきたという経緯があります。
実際にこう深めていって、いろんなことが解き明かされていくというのはいかがですか。
それは面白いですねやっぱり知りたいって欲求が人間にあるんですね。やっぱり本当に面白いですね。はい。

そのまさに知りたいという欲求を満たしてくれた治癒するメカニズムの追求に科学の面白さが詰まっていたんですよね?注目してみましょう。

メカニズムの追求がブレークスルーにつながった。長田さんがそのメカニズムの解明に使ったのは、当時日本では物質・材料研究機構にしかなかった特殊な顕微鏡です。セラミックスの中のひびの様子を、内部まで詳しく観察することができます。治癒したセラミックスの画像を詳しく見てみましょう。

セラミックスはアルミナと炭化ケイ素からできています。長田さんは治癒したひびの部分に何かが入り込んでいるのを見つけました。詳しく解析すると、その正体はどろっと溶けた二酸化ケイ素でした。このどろっと溶ける現象とそのメカニズムこそが治癒時間の短縮に必要だったのです。

そのシナリオです。ひびができるとまずそこに酸素が流れ込みます。それが炭化ケイ素との化学反応で二酸化ケイ素になります。粒々で示した二酸化ケイ素は固体で硬い状態です。それがどうしてとろっとなるのか?鍵となるのがこのアルミナです。固体の二酸化ケイ素に、アルミナがちょっとだけ混じると液体に近いどろっとしたガラス状になることを長田さんは突き止めたのです。どろっとなることで、初めてひびを隅々まで満たすことができます。でもまだひびは弱いまま。その後このどろっとなった二酸化ケイ素が結晶化することによって強度が回復することまで分かったのです。

このメカニズムが分かったということと、治癒する時間を短くするっていうことはどう関わってくるんですか?
今まで亀裂治癒の速度を上げようというのは、 炭化ケイ素のサイズを小さくしたり、たくさん入れたりして、出てくるものを増やそうという発想だったんですね。でも実はそれとは関係ないアルミナが非常に重要な役割を果たしてるって事が分かったので、そのアルミナと同じ役割を持つものを周期表上から色々探しにいって、1000℃でも早く治癒する物質を探索していきました。

縦方向の軸はガラス転移温度[℃]と書いてあります。これはこのプロット以上になると先ほど言ったどろっという物質ができるってことですね。
どろっとスタート地点ですね。
一番右上にあるのが二酸化ケイ素。
はい。高い温度。
私がメカニズム解明していったところ、実は二酸化ケイ素に少しアルミナが溶けているってことがわかりました。だからこそ1300℃、1000℃以上で治癒することはできていたということです。ただガラス転移温度っていうのはアルミナを入れたとしても1000℃なんですね。だからどろっとするかしないかの境目となる温度なので1000℃では1000時間かかっていたと。じゃあ、これをより下げるものは何か?いろんな元素を調べていったものの中の4つ(酸化チタン、酸化ニッケル、酸化鉄、酸化マンガン)示してありますが、その中でも、マンガンっているのが実は速い。酸化マンガンすごい下げるんだなっていうのが熱力学の計算上分かってきました。
酸化マンガンを入れただけで、アルミナと二酸化ケイ素のガラス転移温度も下がるんですか?
そうですね。少しでも酸化マンガンを入れてあげると、新たなガラスの性質になってより低い温度で傷を埋めやする効果を持っています。
少しってどのくらいなんですか?
大体私が実験した0.2%から1%ぐらい。
そんなに少ないんですね。もうじゃあほんとに、パラッ。
パラッと入れただけだけで、1000時間が1分。6万倍の速さになります。

その酸化マンガンのやり方にも工夫があったんですよね?こちらご覧ください。
緑色の所がマンガンがいる所。オレンジ色のところが炭化ケイ素がいる所ですね。よく見ていただくと青い所がアルミナなんですけど、アルミナと炭化ケイ素とかの間に緑色の薄い、細い線が入ってるのが分かりますか。あれがお互いの界面にだけ網み目状に酸化マンガンを添加した様子なんですけど。
お〜
実はこの亀裂って、先ほど言った界面のところを通るんですね。界面の所を通って亀裂が開くので、酸化マンガンを界面のところに入れたら、少ない量でも必ず損傷が起こるところに配置することができる。
ひび割れてる所にはマンガンがあるようになってるってことですね。これが修復時間を縮めていたんですね。
そうですね。それが1000時間から1分。6万倍の速さの修復時間の短縮につながってきます。

網み目状に酸化マンガンを配置するという長田さんの発想。実は意外なところからヒントを得ていました。

それは人間の骨が治る仕組みです。骨にひびが入るとそこに血液が流れ込み、隅々まで満たします。これはどろっとした二酸化ケイ素がひびを埋めた状態と同じです。その後血液中の物質などから仮骨という軟骨のようなものができます。そして強度を回復させる鍵となるのが骨細胞のネットワークです。骨細胞は互いに結合しネットワークを形成しています。このネットワークを使って、治癒物質を運び、ひびを修復していくのです。

長田さんはこのネットワークを参考にしてセラミックスを焼き固める温度などを工夫し、酸化マンガンを網み目状に配置することに成功したのです。

でもすごいですね。すごく大きな飛行機を飛ばすためのエンジンの話から始まりましたけれども、もうほんとに一つ一つの物質が持っている特徴の話までいくと、本当に小さい世界の話ですよね。でもこれが1000℃で1分で修復するという大きな結果につながってるんですね。
そうですね。
先ほどの歯車の部分も全部セラミックスに変えると、軽くなる効果で大体エンジンの燃費が15%ぐらい改善されると試算されています。世界で1年間に30兆〜40兆円分の燃費が改善できることになるんですね。すごくセラミックとか耐熱材料っていうのはすごく重要な分野だと思っています。他にも例えば宇宙旅行、みんなでしようってなった時に、1000人の旅客機で宇宙に行って、行って帰って行って帰ってを繰り返すためには、その材料自身が治癒していかなければいけませんし。そういう極限環境。人間の生活圏を広げるためにも、実はこういうメンテナンスフリーの自己治癒材料ってのは重要じゃないかなと思っています

こういう材料自体が自分の劣化を見つけて必要な処置を下せるっていうのは、省力化ですとか、人口減少社会みたいなところに対応するためには絶対に必要な技術になると思います。

固定概念に縛られず素材の持ってるものを最大限引き出してさらにその素材の元々持っていた以上のことを自己治癒すること実現する。そんなものを知れてすごく良かったなと思いますね。今日はありがとうございました。

それでは「サイエンスZERO」次回もお楽しみに。



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