こんにちは。
NHK Eテレで放送している『サイエンスZERO』。毎回毎回いま話題の最先端の科学と技術をとっても分かりやすく解説してくれるので、ワタクシの大好きな番組でもあります。今回は、2020年2月16日放送の「謎だらけの原始生命体」をご紹介します!
謎の生命体「CPR」を探しに、岐阜県の「瑞浪超新地層研究所」の地下300メートルの洞窟に潜入!見つかったのは、遺伝子をわずかしか持たず、私たち生物全体の共通祖先に極めて近いと見られる生物だった。呼吸をしない、エネルギーも作れない、しかし子孫は残す、こんな常識はずれの不思議な生態に迫る。さらに、今年1月に発表された「アーキアから真核生物への進化の謎に関わる大発見」について分かりやすく解説する。
サイエンスZERO〜放送日と出演者
【放送日】2020年2月16日
【司 会】小島瑠璃子、森田洋平
【ゲスト】東京薬科大学名誉教授…山岸明彦、東京大学大学院准教授…鈴木庸平
【語 り】大嶋貴志
【放 送】 毎週日曜 [Eテレ] 午後11時30分~0時
【再放送】 翌週土曜 [Eテレ] 午前11時~11時30分
原始生命体にご対面!瑞浪超深地層研究所の地下300mへ!サイエンスゼロで解説🎶
人間を含む生命の共通先祖はどこで誕生したのか?深海の熱水噴出孔?宇宙から隕石に乗ってやって来た?さまざまな説がある中、今回原始生命体が発見されたのが、地下の奥深く。岐阜県瑞浪超深地層研究所の地下300mまで会いに行きました。
地下300mまでは専用のエレベーターで降りて行きます。そこは、地上よりも気圧が高く、気温20℃ほど、湿度80%以上のジメジメした環境です。
恐竜が絶滅した白亜紀にできた岩石を横に見ながら現場に向かいます。この岩石、6900万年前のもので、岩の亀裂から水が流れてきています。この水はなんと1万年前に降った雨が岩の中を通ってきた地下水。この1万年前の地下水が重要なポイントでした。
案内をしてくれたのが、東京大学大学院・地球惑星科学専攻の鈴木准教授です。鈴木さん曰く、地下の岩の中に、生命が誕生した当時の姿を色濃く残す微生物が生息しているとのこと。どんな生物なんでしょうね???
原始生命体採取の現場では、白亜紀時代の岩盤に100mの穴を掘り、外の空気に触れる前の1万年前の地下水を採取しています。その地下水をフィルターに通すことで、白いフィルター上にうっすらと黒い汚れのようなものが採取できていました。これが、実は50億個体もの原始生命体だったということなんです!大きさは1/5000mm=0.2μm っていう小ささ!肉眼で見えるわけないですねぇ〜
生命の共通祖先に迫る!謎だらけのCPRの研究最前線をサイエンスゼロで解説🎶
生命の起源である共通祖先から、生物が進化していく中で分類上3つのグループに分けられるみたいです。生命誕生の共通祖先がどういう生物だったのかはまだ分からないことが多いようですね。
- 真核生物:人間、魚、植物、昆虫など
- アーキア:単細胞生物/過酷な環境に強い微生物を含む
- バクテリア:大腸菌などの細菌
そもそもCPRって何?
今回鈴木さんが発見した原始生命体は、バクテリアグループ寄りの共通祖先に近いところに分類できて、2015年に発見されたばかりの新しい生物グループであるCPR(Candidate Phyla Ratiation)っていうのに入るようです。
このCPR、まだ培養することができないためその生態が謎だらけの生物。共通祖先にとても近いためCPRが共通祖先の性質を残している可能性が非常に高いと考えられていて、これからの研究で共通祖先に迫ることが期待されているそう。ロマンありますよね〜
極限生物ハンターが採取!遺伝子400個のCPR
鈴木さんの採取したCPRよりもさらに共通祖先に近いCPRを研究しているのが、JAMSTEC(海洋研究開発機構)高知コア研究所の鈴木志野研究員。こちらも鈴木さんですね。鈴木さんが見つけたCPRは、アメリカ カリフォルニア州のザ・シダーズと呼ばれる泉。ここは普通の生物が住めないようなPH11以上という強アルカリ性の環境ですが、こんなところに生息してたんですね〜
このCPRの大きさは0.0002mm、遺伝子数400個とのこと。通常は、遺伝子が1000個以上ないと生命活動ができないと考えられていましたが、このCPRはそれをはるかに下回る遺伝子数だけども、遺伝子解析の結果から子孫を残すことができることが分かっているそう。でも呼吸しない、たんぱく質を作れない、脂肪を作れない、ということから、何をエネルギー源にしているのかが謎。CPRは水素をエネルギー源としているのではないかと考えられているようで、水素は「かんらん岩」というキラキラした岩に水が触れると発生するため、水とかんらん岩があればCPRがいる可能性が高いと考えられてきて、さらに岩の中を調査することもできるようになってきたことから、地球だけでなく他の惑星においても岩石を調べることで生き物の存在が確認できるかもしれない。これまたロマンありますよね。
2020年1月の進化の謎に迫る重大発表!MK-D1アーキアの培養に初めて成功!驚きの生態をサイエンスゼロで解説🎶
バクテリアグループと真核生物グループの間に位置するアーキアグループ。このアーキアグループに属する単細胞生物の一つであるMK-D1の培養に成功し、その驚くべき生態が発表されました。これホヤホヤのまだ湯気がたっているような最新報告です。この結果、生物分類に関する教科書の記載内容が書き変わるかもしれません!アーキアと真核生物は同じグループだったようです。真核生物は細胞が非常に大きくて複雑、アーキアはとっても小さい。その両者の大きなギャップをMK-D1が埋めてくれるかもしれません。
MK-D1が捕獲されたのは2006年のこと。紀伊半島沖の水深2533mの深海の泥の中から見つかったそうです。捕獲から培養成功までの12年、JAMSTECの井町寛之主任研究員の根気の賜物です。MK-D1が増殖して成長すると、長い触手のような腕をたくさん出すことが分かりました。ここからはまだ井町さんの仮説のようですが、この触手を使って他の生物を自分自身の細胞内に取り込み、その生物の持つ機能を自分自身の機能として取り込むことで、細胞機能をグレードアップしていった結果、複雑な細胞を持つ真核生物に進化して行ったのではないか?というもの。CPRではないけれでも、他の生物を自身の細胞に取り込む場面が実際に観測されている様子も番組では紹介されていて、生命のたくましさを垣間見れる場面でしたね。
生物って何なんだろう?こじるりさんの疑問
「やりたいようにやってますよ。できることは何でもやっちゃう。ともかくうまく増えられる方法を採択したやつがうまく増えている。だけど、時々ものすごく難しいステップがあって、それを乗り越えたものがいる。」
生命ってたくましいですよね。その時の環境・状況に応じて進化したものが現在につながって生き続けているんですね。勉強になりました!
サイエンスZERO〜放送内容全文
今回のサイエンスZERO、私がやって来たのは岐阜県瑞浪市にありますこちら、瑞浪超深地層研究所というところなんですね。ここの地下深くにまだ誰も見たことがない原始生命体がいるというんですね。一体どういうものなのか?小島さん私だけすみません。
あ〜ずるい。一緒に連れてってくれればいいのに。
ということで小島さん原始生命体を探るにあたって、私たちの共通祖先がどんなところで誕生したのかについてなんですが。
はい、どんなところで?
たとえば深い海の底や宇宙から来たんじゃないかとも言われているんですよね。こちらは勢い良く煙を噴き出す深海の熱水噴出孔。ここで生まれたという説や 生命は隕石に乗って宇宙からやって来たという説もあって世界中の科学者がその真相を探っている真っ最中なんです。しかし今回は宇宙でも海でもなく向かったのは地下の奥深くなんですよ。
どうしてだ?
案内してくれるのはこの方。 地下深くに暮らす極限生物のスペシャリスト、鈴木庸平さん(東京大学大学院 地球惑星科学専攻 准教授)です。本当に地下の岩の中に原始生命体がいるんですか?
生命が誕生した当時の姿を色濃く残していると思われている微生物が生息している。
では、早速見せていただきましょう。
この下ですか?はいいや〜ワクワクしてきますね。
専用のエレベーター、地下世界へ向かいます。
100mの明かり。ああ〜。
リアルな地底探検。
ちょっと先生の声が聞こえづらくなりました。あっ、これ気圧ですね、多分。
気圧です。
深くなるほど気圧が上がっていきます。
1010超えましたね。
3分後。(地下300m)原始生命体つまり私たちのご先祖様が暮らすという場所に到着。
これが地下300m。じめじめしますね。
岩盤をくりぬいたトンネルは気温20℃ほど、湿度80%以上。目指すのはこの奥。
この岩石はですね、非常に古くて時代でいうと恐竜が絶滅したという白亜紀にできた岩石。
6900万年前の岩石それ自体がとても貴重です。
それで、こういう岩の亀裂が走っているのが見えると思うんですけど、こっから今ポタポタ水がたれている。
はい、たれていますね。
なので岩の中なんですけどもこの亀裂に水が流れてて、ここに到達するまでに1万年かかっている水なんです。
1万年前に降り、岩の中を通ってきた地下水。この水がポイントなんです。鈴木さんが生物を見つけた場所がこちら。
これが現場です。
基地みたい。
そうですね。これが実はここから100m先まで穴が水平に伸びていまして、本当に岩の中に住み着いている生き物を調べることができる。
岩盤を100m掘り、外の空気に触れる前の水を取り出すのです。
先生が見つけたっていうその生き物はどこにいるんですか?
実は今、その生物が集められている。そういうところがこれになります。
このチューブ全部そうだったんですか?
はい。
この装置に生物が捕獲されているんだそう。いよいよその正体が明らかに。
この黒く見えてるものが微生物です。
このちょっと汚れのように見えたものが、これが微生物なんですか。
はい大漁です。
大漁なんですね。
やっと会えたと思ったら、これがご先祖様?
まさにそのフィルター、ろ紙が今ここにありますけれど。ご先祖様との対面ですか?これが今。
これ一見汚れのように見ますけれども、ここに50億個体もの原始生命体が捕まえられているんです。
50億個体。
ええ。
どれくらいの大きさとイメージすればいいんでしょうかね?
ちょっと想像もつきませんよね。
はい。
詳しくは改めて専門家お二人に伺っていきたいと思います。まずは生命の誕生や進化を研究されている東京薬科大学の山岸明彦さん(東京薬科大学 名誉教授)。そして先ほどの生物を発見した東京大学の鈴木庸平さんです。よろしくお願いいたします。
この生物はどれくらいの大きさなんですか?
1ミリっていうのを定規で見たことありますよね。とても小さいですよね。その大きさの更に1/5000という。目で見える人がいたらそれは奇跡です。
分からないですね。
うん。それ見てもわからないです。ではその鈴木さんが発見した原始生命体、どんな姿なのか、高精度のカメラで捉えた映像があるのでご覧下さい。
この緑色の点です。
点ですか。もうちょっと足とか顔とかが見えるのかなと思ったんですが。
初めはとてもちっちゃいので、ほんとにゴミだと思いました。ゴミが何かフィルターに乗っちゃったよ思ったんですけど、ちゃんとそれが生き物だっていうことがはっきり分かるようになってきています。
まずはですね生物全体の中でどのような位置付けにあるのかというのをこちらを使ってみてきたいと思います。
こちらは生命の起源から生物の進化の道筋を表したものです。ここの根元の部分が地球上の全ての生命の共通祖先あたります。ここから大きく3つのグループに分けられるんですね。
まず一番右側、真核生物。これが私たち人間や魚、植物、昆虫などを含みます。そして一番左側バクテリア。大腸菌などのいわゆる細菌です。そして真ん中がアーキアというグループ。バクテリアと同じ単細胞生物なんですが、深海の熱水噴出孔など過酷な環境に強いタイプの微生物が含まれます。実はですね、この生命誕生、そして共通の祖先の部分なんですが、これはどういった生物だったのか、そこからどのように進化したのか、まだ分かってないことが多いんです。で、今回鈴木さんが発見した生物がどこに位置するかといいますと、大体このあたり。
お〜!バクテリア寄りの、でも共通祖先にとても近いところにいるんですね。
まさか地下深い岩の中から見つけるとは思っていなかったので、そういう意味ではびっくりしています。
地下にいるっていうことはどういうふうに感じられました?
やっぱり何か、共通の祖先が住んでいた環境に近い可能性がありますよね。
このグループなんですけれども、CPR というふうに名付けられています。CPR(Candidate Phyla Ratiation) とは2015年発見された新しい生物グループのこと。まだ培養することができていない謎だらけの生物群なんです。
もし培養ができないと、その生物の必要なものが何かとか、そういう情報が一切取れませんので、基本的には何をしてるかわからないっていう、そういう生き物になってしまいます。
そうか。まだ謎が多い。けど実物ことが今回分かったということなんですよね。
はい。
CPRっていうこの生き物たちっていうのは、共通祖先にとても近いわけなんですね。ということは共通祖先の性質を残してる可能性が非常に高いんです。だからこれを調べて、あとはいろんな生き物と比較する必要はありますけれども、共通の祖先のどういう遺伝子を持っていたのか、とかいうのがどんどん分かってくんじゃないかと思います。
というわけで、今回鈴木さんが発見した原始生命体というのが、このCPRに属するということが分かったんですね。実はですねさらに共通祖先に近いかもしれないというふうに考えられるCPRの存在も、これ明らかになってきているんです。
よりご先祖様に近いCPRを研究しているのがこちら。JAMSTEC(海洋研究開発機構) 高知コア研究所。世界中の極限環境から集められた地層のサンプル”コア”が20万本以上も保管されています。こちらは鈴木志野さん(JAMSTEC地球微生物学研究グループ 研究員)。 世界一の過酷な場所で生きる生物を研究する極限生物ハンターです。これはマリアナ海溝の水深5000mから採取した貴重なコア。 さらにカナダの鉱山の地下深くでも生物の採取に挑戦しました(カナダ キドクリークマイン)
そんな志野さんがさらに原始的なCPRを見つけた場所が、アメリカ カリフォルニア州 ザ・シダーズと呼ばれる泉です。湧き出ているものは、自然界にはほとんど存在しないほどの強いアルカリ性を持った水です(水素イオン指数pH 11以上)。普通の生物はとてもすむことができません。
そんな中から見つけ出したのがこちらのCPR。この緑の光、一粒の大きさは0.0002mm。遺伝子を解析したところ・・・。
遺伝子の数もすごく少なくて、400個の遺伝子を持ったCPRが存在することが分かった。めちゃめちゃ少ないですね。
これは同じバクテリアである大腸菌と比べると1/10。CPRの遺伝子は驚くほど数が少なかったんです。
必要と思われる遺伝子の多くを欠損しているので、我々は考えているいわゆる「生命」とは非常に特徴が異なっている。
遺伝子が欠損してるけど生命っていうことですか?
そうですね。少なくとも1000個は遺伝しかないと生命活動ができないんじゃないかと言われているので、この400っていう数は驚くほど小さいんですよ。あと、この生命は子孫を残すことができることは遺伝子の解析からわかっています。なんですけど、何を食べてるかとか、あと、呼吸しないとか。我々の体はタンパク質からできているんですけれども、実はタンパク質の材料を作れないとか。あとちょっと僕的には羨ましいのは、この 生物は脂肪を作ることができないんです。そういう生き物であることが分かっています。
そんなできないことづくしのCPR。どうやって生きているのか疑問に思いますよね。
私はず〜と最初からそこが疑問で。生命を維持する環境に思えない。どうしてもね。なんだろう。でも共通してあるのは液体ですか?水があったのと。何か液体に依存してるんですかね?何なんだろう?
そこでですね見て頂きたいのがこちらの岩なんですね。
重い。何かキラキラしてますね。
きれいですよね。こちらかんらん岩という岩なんですね。
かんらん岩ですか。
このかんらん岩、実は特別な性質を持った岩石です。かんらん岩は水と触れると水素を発生させます。CPRはこの水素を何らかの形でエネルギー源として取り込んでいるのではないかと考えられているんです。
CPRは水素を栄養としてるんですか?
そうなんですよね、生き物によって何をエネルギー源にできるかっていうのはみんな違うんですよ。我々はもちろん水素を使えませんよね。だからいろんな食べ物、有機物、タンパク質とか食べるわけなんですけども、中には水素を使えるやつがいるわけですよね。
今まで生物がいるだろうと思っていた水中とか土の中とかそういう概念とは全く違うものを今日いただきましたよね。
岩の中の生き物の特徴が調べられるようになってきて、それは地球だけに限らず地球を飛び出して惑星の岩石を調べると惑星の生き物のことが分かることを意味しています。
そうか。火星はじゃあ水ありますよね。火星に今回見つかったようなCPRがいるような可能性はどれくらいありますか?
とってもあるんじゃないかと思うのは、火星に、地下にはね水があるって事がごくごく最近わかってきたんですよ。あるんじゃないかなっていうのは昔から言われていたんですけどね。それから火星にもちろん岩石ありますよね。それから火星にメタンがあるって事も実は分かっているんですよ。そしたら地下の水のあるところも全部ありますから、いてもいいんじゃないかというふうに思っている人たちはどんどん増えてきてます。研究者の中にね。
じゃあ地球人が最初に発見する宇宙人はCPRかもしれないね。
はい。そうかもしれないよね?
そうですね。
火星で探せばね。
この分野を研究する面白さっていうのは何ですか?
人とは全く違う生き物で、今までは会話する術がなかったんですけど話は聞けるようになってきた。そこで話を聞いて「何が好きなの?」とか「どういうとこで生きてんの?」とかいうことを調べていくと培養成功したり。じゃあ、さらに古い微生物はどこにいそうだっていうヒントが得られるので、これからそういう生き物を求めた非常にワクワクするようなそういう研究対象だと思います。
会話をするんですね。あ〜面白いな。
さあ、ここからはもう一つの大発見。2020年1月進化の謎に迫る重大な発表がありました。主役はこちら。単細胞生物のアーキアの一つMK-D1。実は私たち人間の進化の謎の大事なピースを埋める存在かもしれません。その培養に初めて成功したことで進化の教科書が書き変わる可能性があるのです。
その発見によってこんなことが起こるかもしれません。
何だ?あっ!ここが1グループになりましたね。
今のいろんな高校でも大学でも、教科書見るとですね、3つのグループがありますと。だけどもここ数年の研究でどうもアーキアと真核生物って同じグループなんじゃないかということが分かってきたんです。真核生物って大きな生き物はたくさんいますし、細胞も実は非常に大きい、さらに複雑なんですよね。それがアーキアからどうやって誕生してきたのかかがものすごい謎だった。で、今度の発見はね、そこを解き明かす非常に大きな鍵になるんだろうというふうに思われています。
で、その発見に関わっているのがこちらの生物なんですね。
あっ、さっきの。
MK-D1という生物なんですけれども、アーキアの中でも遺伝上はですね真核生物に近いタイプのもので、以前から注目されていたんですが、このMK-D1についてどんな発見があったのかご覧ください。
そのアーキアMK-D1が捕獲されたのは2006年のこと。紀伊半島沖の水深2533m。深海の泥の中からです。調査を担当したのがJAMSTECの井町寛之さん(JAMSTEC超先鋭研究プログラム 主任研究員)。MK-D1は世界で誰も培養に成功していなかったので、詳しい性質がわかっていませんでした。
井町さんはオリジナルの培養器を開発することから始めました。完全密封した筒の中。スポンジを数珠つなぎにぶら下げてあります。まずスポンジにアーキアを含んだ海水を染み込ませ、次に栄養分を含んだ水を上からかけ流します。するとスポンジの中に栄養の濃いところと薄いところ、流れの速いところなど様々な条件が生まれます。しかし培養は難航。試行錯誤が続いたのです。MK-D1は増殖のスピードがとても遅く、大腸菌の1/1000ほど。さらに増殖しても全く人間の目では見えないなど問題だらけだったんです。
通常微生物を培養すると培地が濁って目で見ることができるんですけども、このアーキアは全然培地が濁らない。なので実は増殖できていたのかもしれないけど、人間には分からなくてなかなかうまくいってなかった。いろんな試行錯誤と失敗を繰り返しながら進めてきたので12年の時間がかかったということです。
井町さんの根気によって世界で初めて真核生物に近いアーキアの培養に成功したんです。でも本当にすごいのはここから。MK-D1が予想もしなかった姿に変身することまで分かっちゃったんです。
増殖して成長すると、このような長い触手のような腕をたくさん出すということがわかりました。すごくびっくりして興奮したことを覚えてます。
このMK-D1増殖が進むとある時点で突然このように腕を伸ばします。井町さんは、この腕こそがアーキアから真核生物への進化のきっかけなのではないかと、こんな仮説を立てました。
地球に酸素が生まれた27億年前。この時点で酸素を使う機能を持っていなかったアーキア。ミトコンドリアの祖先に注目しました。この生物は酸素を使って活発にエネルギーを作り出していました。MK-D1のように長い腕を持つものがミトコンドリアの祖先に絡みつきます。そしてエネルギーをもらうことに成功。さらにアーキアはミトコンドリアの祖先を丸ごと細胞内取り込み、共生させ、ついには自分の一部としてしまったのです。これが真核生物の始まり。その後、真核生物は大量のエネルギーを使って細胞を複雑化させ、進化を続けていったのです。
そうか。触手はじゃあミトコンドリアの存在と酸素を一緒にもらうための。
ためだったじゃないかというのが、今の井町さんの仮説ですね。素晴らしいのはですね、これをやっぱり培養できるようになったっていうことなんですね。それまでは何かこういう菌がいるんじゃないのということまでは分かってたんです。だけどその遺伝子が分かってるだけでは本当に何をやるのかは分からないんですね。培養できると実験ができるようになりますよね。ということでこれからいろいろ分かってくるじゃないのかなと思ってます。
ここからどういうふうに増えていくっていうのはもう分かってるんですか?
そうですね。我々今非常に複雑な体を持ってますよね。だけどこんなのいきなりできるわけないですよね。まず今みたいに取り込んで細胞が多分大きくなった。で、大きくなって単細胞がいくつかの細胞がくっついたような多細胞生物になる。更にですね、いろんな細胞が今度別の機能を持ち始める。そうすると様々な形、様々な性質を持ったようないろんな生き物が誕生できたんじゃないか。その中に我々もいるわけですよね。
そうか。人間とした形を形成する最初の一歩はミトコンドリア取り込んだということかもしれない。
はい。そうだと思います。
小島さん、生物が他の生物を取り込むってすぐにピンときました?
この寄生とかね、そういうことは今自然界でもたくさん起こってるように勉強しましたけど。取り込む。しかも一つの細胞の中に一緒に性質を存在させるってイメージがわかないです。
実はですね他の生物を取り込んだことを実証するある映像があるんですね。ご覧ください。
こちらは国立遺伝学研究所の宮城島さん(国立遺伝学研究所 共生細胞進化研究室 教授)。 二つの違う生物がどのようにして一つの生物として生きていくようになったのかを解き明かそうとしています。この透明の渦べん毛虫。もともと葉緑体を持っていません。葉緑体を持った藻類を見つけると・・・。じわじわと体の中へ。合体!これは消化してるわけではなく、葉緑体が作るエネルギーを受け取っているのです。渦べん毛虫は藻類に数週間光合成をさせたら、また新たな藻類を体内へ入れエネルギーを得るのです。
こう目で見てみると、あっ、本当に生物を取り込むっていうことが可能なんだって。それを糧にして成長していくことができるんだっていう実感が目で見て分かりましたよね。
そうですよね。これMK-D1がミトコンドリア取り込んだってことがもし実証できたら、やはりここは同じグループなんだっていうことが言えるようになるということなんですか?
同じグループだっていうことはもう多分ほとんど遺伝子から分かっているので、むしろ同じグループなのになんでこっちはとっても小さな生き物で何でこっちは非常に大きな細胞になったのと。そこでミトコンドリアを取り込むとか、細胞そのものが大きくなるってこともあったんだと思うんですけども、そこの過程ね。どうやって変わっていたのかがだんだん分かってくるというのにすごく役立つんだと思うんです。
でもそうですね、今また固定概念がいくつもいくつも覆されましたよね。生物って何でしょうね。
やりたいようにやってますよ。できることは何でもやっちゃう。ともかくうまく増えられる方法を採択したやつがうまく増えている、ということなのかなと思いますけどね。だけど時々ものすごく難しいステップがあって。
そこを乗り越えた人がいるっていうことですよね。乗り越えたものが。
我々の祖先です。一番多分みんないろいろ知りたいと思ってるのは、例えばDNA使うっていうのが宇宙で普通なんですかとか、タンパク質ってねみんな使っているんですかとか、もちろん行って調べるのが一番いいんですけどね。だけども進化の、その過程を調べていくと、必然だったんだと思うか、なんだこれ偶然だよねと、
いらなかったかも。
そうそう。「いらなかったかもね」というのが分かってくると、何かそれで自分の祖先が分かった感じになりますよね。
そうですね。生命体っていうものの把握の仕方をもうちょっとを柔軟にしないといけないなって思いました。もしかしたら地球外生命体と今まで出会えてなかったのは私たちの固定概念が邪魔をしていただけなのかもしれないなと、そんな気持ちにもなりました。
お二人、今日はありがとうございました。
それでは「サイエンスZERO」 次回もお楽しみに。
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