こんにちは。
NHK Eテレで放送している『サイエンスZERO』。毎回毎回いま話題の最先端の科学と技術をとっても分かりやすく解説してくれるので、ワタクシの大好きな番組でもあります。今回は、2020年6月7日放送の「細胞の息吹をとらえろ!“電子顕微鏡の達人”甲賀大輔」ご紹介します!
オンリーワンの科学者たちの“技とこだわり”に迫るシリーズ「科学の達人」。電子顕微鏡の達人・甲賀大輔さんが登場。体内に広がるミクロの世界、細胞の姿を鮮明に捉えた甲賀さんの画像は、まるでアート作品のよう。どうやって撮影するのか?達人の仕事場に潜入すると、世界でもほとんど使い手がいないという技の秘密が明らかに。スタジオトークでは職人気質のこだわりがあふれ出る。道をきわめようとする科学者の信念が、熱い!
サイエンスZERO〜放送日と出演者
【放送日】2020年6月7日
【司 会】小島瑠璃子、森田洋平
【ゲスト】旭川医科大学准教授…甲賀大輔
【語 り】川野剛稔
【放 送】 毎週日曜 [Eテレ] 午後11時30分~0時
【再放送】 翌週土曜 [Eテレ] 午前11時~11時30分
サイエンスZEROで電子顕微鏡の達人・甲賀大輔さんに密着!オンリーワン科学者の甲賀大輔さんはどんな人?
スタジオにやってきたのははにかみ気味の笑顔が素敵な甲賀大輔さん、旭川医科大学 准教授、顕微鏡解剖学者とも紹介されていました。収録されたのは2020年2月21日、新型コロナウィルス騒動が起こる前だったようです。
甲賀さんの持つ細胞撮影技術に惚れ込んだ研究チームに請われて、旭川医科大学の研究室にやってきたようです。
サイエンスZEROで電子顕微鏡の達人・甲賀大輔さんに密着!達人技で細胞の姿をアートに捉える!
甲賀さんが電子顕微鏡で撮影した細胞の姿はアートそのもの。もともとは白黒の画像みたいですが、映し出された細胞画像に色をつけて仕上げていくんだそう。ワタクシ的にはものすごい根気がいる作業なんだと想像しますが、甲賀さんの話しっぷりを聞いていると楽しくって楽しくってしょうがない!って感じ。ひとつひとつがまさにアート作品なんだと思いました。
甲賀さんの画像はNHKスペシャルなどのテレビ番組にもたびたび登場していて、その美しい細胞の世界をお茶の間に届けているんですね。
ヒラヒラしたたくさんの毛をもつ線毛細胞が、まるでイソギンチャクのごとく気管支の壁に取り付いている姿。ヒラヒラの毛は200〜300本もあって、空気と一緒に吸い込んだゴミなんかを体の外に出す働きをしてるんだとか。静止画だけど、動きが想像できる鮮明な画像です。
肺の中、肺胞の中にも小さな細胞が佇んでいました。マクロファージという細胞。この子が肺の中に入ってしまったちっちゃなちり・ほこりを食べて除去してくれるんだそう。マクロファージは肺胞の中を動き回んのかな?
サイエンスZEROで電子顕微鏡の達人・甲賀大輔さんに密着!オスミウム浸軟法で細胞の内側まで捉える!
甲賀さんのスゴ技は、上で紹介したような線毛細胞やマクロファージといった、細胞を外から捉えた画像だけじゃないんです。なんと、細胞の中までその姿を捉える技術を持っていて、いまこの日本では唯一の存在なんです。
ミトコンドリア、核、小胞体、ゴルジ装置って言葉、理科の授業で聞いたことないですか?ワタクシも久しぶりにこの言葉を聞きましたが、「何だっけ?」といった感じ。
1つの細胞の中にはミトコンドリアなどの細胞小器官が詰まっています。甲賀さんのスゴすぎるのは、これら細胞内の小器官の姿までを鮮明に捉えるところなんです。
撮影に使うのは走査電子顕微鏡。1mmの70万分の1の世界まで見ることができるといいます。細胞内撮影の極意は、撮影技術だけじゃなくて、撮影に至るまでのプロセス全般にありました。プロセスは大きく次の5つになるそうです。
- 見たい細胞の入った組織を取り出す「組織取り出し」
- 特殊な溶液につけて形が崩れないようにする「固定」
- 細胞の中を見るために細胞を割る「割断(かつだん)」
- 細胞断面から細胞内部を見やすくする「処理」
- 目的の細胞を選びだしての「撮影」
甲賀さんの達人ポイント!冷やして「割断(かつだん)」!
割断は、固定化した試料を液体窒素でマイナス196℃の極低温まで冷やします。まさにカチコチ。これに衝撃を与えることでかち割ることができるんです。使うのはマイナスドライバーの小さいやつ。マイナスドライバーの先端を試料にあてがい、ドライバーの端をハンマーや大きめのドライバーの柄を使ってコツンと叩いて衝撃を与える。それだけできれいに割れてました。慣れてる甲賀さんがやるから簡単そうに見えてますけど、ここに至るまでに道具を変えて試行錯誤してきたんでしょうね。
甲賀さんの達人ポイント!オスミウム溶液で「処理」!
割断した細胞の中は細胞質基質というものがぎっしり詰まっているため、細胞の内部構造をうまく見ることができないそうです。細胞質基質を取り除くプロセスが「処理」となります。鮮明な細胞内の撮影をするためには必須のプロセスです。
作業そのものは簡単。割断した資料にオスミウム溶液を浸して1週間ほど放置。温度管理と放置期間が重要で、これを見つけるまでがノウハウの塊。甲賀さんが5年を費やして見出した達人技の真髄です!
この「処理」はオスミウム浸軟法といい、開発したのは鳥取大学の田中敬一さん。甲賀さんが師と仰ぎ、顕微鏡解剖学の世界に進むキッカケとなった方なんだそう。甲賀さんにとってはまさしく尊敬するメンターなんですね。
サイエンスZEROで電子顕微鏡の達人・甲賀大輔さんに密着!ゴルジ細胞見参!細胞の姿を立体で捉える!
甲賀さんが打ち込むゴルジ装置の全体像の解明。
ゴルジ装置(ゴルジ体ともいう)とは、細胞内でタンパク質を使えるようにしたり、外に運び出したりする大事な役割を担ってる小器官のこと。細胞の種類や状態によってさまざまな形があるそうです。(知らなかった〜)
ゴルジ装置立体化のプロセスは次のよう。
- 樹脂で固めた試料(縦横1mmにも満たない)を固定して、刃物で数千分の1mm以下の厚みにスライス。(これも職人技!)
- スライス片を顕微鏡で見て、断面に並ぶ無数の細胞からゴルジ装置が美しく見えるものを探して、ターゲット細胞を特定。(ものすごい根気がいるっぽい)
- ターゲット細胞のスライス片を撮影(1つの細胞で200枚の画像!)
- 撮影画像200枚をコンピュータ上で組み合わせて再構築(連続切片SEM法)
細胞ごとに含まれるゴルジ装置の形が異なることが分かってきたんだそう。さらに、コンピュータ上で立体化されたゴルジ装置、3Dプリンターで作った模型を手に取って観察できるようにもなったんですよ。ミクロのものを手に持てるって、ものすごい技術進化だと感心しまくりです。
ゴルジ装置を細胞レベルのセンサーとした病気診断への活用が期待されているそうな。がんなどの病気でゴルジ装置の形が崩れるということがあることから、まずは正常なゴルジ装置の形を解析してライブラリー化することを目指しているそうです。この道は甲賀さんなくして切り拓けなかったように思います。
サイエンスZEROで電子顕微鏡の達人・甲賀大輔さんに密着!達人技を次世代へ!
オスミウム浸軟法、これを自由自在に扱える研究者は日本では甲賀さんただ一人。技術的に難しい方法で、やはり後継者問題に直面しているようです。でも、甲賀さんが一歩先ゆくのは、オスミウム浸軟法よりも簡単にできる別の方法を編み出したこと。具体的には番組では紹介されませんでしたが、一体どんな方法なんでしょうね?
コメント